「タイ刹那ヒト・4」

 俺の欲望は、日々大きく、確かなものとなっていった。
 俺自身、どうしてヤマトを失いたくないのか、よくわからない。
 けれど、失いたくないという気持ちだけは本物で、
 何かを考えるヒマもなく、
 気づけば俺はいつもヤマトを泣かせている。
 この週で俺が何度ヤマトを犯したかわからない。
 でも、かきたてられる何かに逆らえないまま、
 俺は次の日も次の日もヤマトの家のインターホンを押していた。
 けど・・・。

 「はぁ、はぁっ、あっ・・・太一・・っ。」
 「・・・何」
 いつものように、俺がヤマトの下腹部に手をのばしたときだった。
 「太一は・・・どうして、こんなことを・・・っ」
 「え」
 たった一言で、俺の手が止められた。
 「なんでって・・・」
 俺は聞かれたことをよく理解できなくて、
 しばらくの間、錯乱状態におちいっていた。
 「・・なんで・・なんでこんなことするんだよ!!!」
 「・・・そんなの・・・」
 俺にだって、よくわからないのに。
 ヤマトは泣き顔で、声が枯れるほどに叫んでいた。
 涙でぐちゃぐちゃの顔と、
 体液でぐちゃぐちゃの床が、俺の心を責めたてる。
 「やめてくれないか!!いいかげんに!!」
 そんなこと、言われても。
 俺自身よくわからない、俺自身うまく説明できない、
 それでも俺を行動にうつさせる、この感情を、
 突然ヤマトにわかるように説明しろだなんて、
 無理に決まっている。
 「俺・・俺・・わからな・・・」
 「やめろよ!!・・お前は一体俺に、
  何を望んでそんなことをするんだ?!」
 そんなことわからないよ。わからない。
 夢で聞こえた誰かの声が、うっすらと蘇ってくる。
 (あなたの求める快感も、すべてが思いのままよ)
 「俺は・・・なぁ、ヤマト!俺はっ」
 「何が目的だ・・・答えろよ太一!!」
 それ以上言わないでくれ。俺だって・・・
 俺だって・・・
 (ヤマトは今あなたのものよ!)
 よく、わからな・・・
 「こうやって、セックスすることが目的なんだろ?!」
 ピィン、とはった糸を、何かでプツンと切られた。
 「なんだと!!!」
 俺の心を、行動を保っていた何かが、切られた。
 「ふざけんじゃねぇよ!!   お前っ・・何言ったかわかってんのかよ!!」
 血相を変えて怒鳴ると、ヤマトはすぐに怯えた表情に変わり、
 泣きそうな目で俺を見た。
 今まで、ちょっと我を忘れてました、みたいな顔で。
 今、我にかえりました、みたいな顔で。
 「やっ・・ごめんっ・・あのっ・・やだっ、太一!!」
 その変わり様と、震える白い足に俺はイラ立ちを感じ、
 突然強い力で、ヤマトのそれをにぎってやった。
 「あ!ああっ!・・ふあっ・・あぁー!!」
 ヤマトは体をよじらせてそれを拒む。
 「逃げてんじゃねぇよ・・何て言ったんだコラ!」
 「ごめんっ・・太一っ、ごめんっ、ごめんってばっ・・あ!」
 「俺が何を目的にしてるって?言ってみろよ、ヤマト!」
 半狂乱で、俺はかすれそうなくらい大声で怒鳴った。
 もう、周りの景色がどうなのかさえ、よくわからない。
 「・・体だけが目的とでも言いたいのかよ、
  そんなわけっ・・・そんな・・わけ・・」
 その先が、いえなかった。
 そこまで言って、気づいた。
 俺は、本当のところどうなんだ?
 (あなたの求める快感も、すべてが思いのままよ。)
 本当は、本当の目的は、もしか・・して・・・?
 「うあああああああっっ!!」
 思考回路がショートして、俺はついに全てがわからなくなった。
 一体、なんなんだ?
 本当の目的って、なんなんだ?
 ヤマトのあえぐ声や、
 わめく声さえも聞こえないのはいつものことで、
 今日は自分の感覚を追いかけることさえ、
 うまくできなかった。
 なんなんだ?なんなんだ?
 わからないというイライラが、
 さらにひどい行動につながっていく。
 俺はどうしたらいいんだ!!
 自分の中での考え事に気をとられて、
 快感もよくわからない。
 ひどいことを、何度も何度もして、
 俺が頂点に達したところで俺の行為は終わった。
 「うあああ・・・あああああ!!!」
 わけのわからない不快感が、狂気を帯びた叫びに変わる。
 俺はもう抵抗する力すら失ったヤマトを
 その場に投げ捨てるように突き放し、
 すぐさまヤマトの家を出て行った。
 心臓が張り裂けそうなくらい走った。
 わけがわからないほど走った。
 夕焼けは、もうすぐ暗闇に変わる。
 赤色だった道路がだんだん灰色に、
 赤色だった俺の心は、だんだん黒ずんでいった。
 この道の先にあるのはなんだ?
 ただ、いつかすべてが黒にそまること、
 それだけが今わかる事実だった。

 どれほどたったか、俺は力つきるまで走り、
 その場にくずれおちた。
 頭の中にあるのはヤマトの言ったことと、
 夢の中の誰かの声。
 本当に俺が求めるものを問う言葉。
 狂気はすっかりおさまって、
 俺はもうすぐ深くなろうとする群青の空を見ていた。
 
 何か、俺が考えなきゃならないことがある。
 このままヤマトとこんな関係を続けても、
 ヤマトはあんなふうに、泣いたり怒ったりするだけだ。
 俺自身、自分のこともよくわからないし、
 もしもう一度あの場所に行ってしまったら、
 俺はまたさっきのように狂ってしまうだろう。
 自分を制御できなかった自分がくやしい。
 でも、ヤマトを目の前にして何かを考えると、
 答えのでないことにいらだって、
 結果的にはヤマトをどうにかするしか方法がなくなる。
 俺を拒んだヤマトの台詞が、心の奥底を刺す。
 少し・・・考える時間が必要だと思った。
 ヤマトも俺を拒否しているようだし、
 俺だってこのままこんな状態を続けていられない。
 ヤマトのため、俺のため、
 しばらく考える時間を設けようと俺は思った。
 けれど、それだってそんなふうに言いながら、
 本当はヤマトのためなんかじゃないかもしれない。
 俺が、狂気に満ちた自分の姿を見せるのが
 嫌なだけかもしれない。
 でも、それ以外にどうすることもできなくて、
 俺はそう決意せざるをえなかった。
 
 夜はどんどん深くなる。
 整理のつかない感情を放置したまま、
 俺は来た道をもどりはじめた。
 
 夜は深くなる。
 乗り遅れた心を、待ってはくれない。









          
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